無事に購入申し込みが済み、申込の1番手を獲得し、
あとは売買契約の日程が決定次第、書類にサインをすることで
ほぼ念願のマイホームが手に入る段階まで来た僕カナモト。
ただ、待てど暮らせど「契約日が決まりました!」という連絡がサノさんから来ることはなく…。
ストーリーは予想もせぬ展開へと進んでいきます。

え、抵当権を抹消できないって…どういうこと?

2020年11月13日(金)に物件の購入申し込みをしてから約10日が経ち、
久しぶりにサノさんから電話連絡があった。待ちに待った契約日決定の連絡かと思いきや、
内容は「売主さん側が抵当権を抹消できず、このままでは売却が難しい」ということだった。
僕は思わず「えっ、そんなことあるんですか?」と衝撃を受けながら呟いた。

抵当権とは、住宅ローンを借りる際に、
金融機関側が対象の住宅と土地に設定する権利のことで、簡単に言えば「担保」のことである。
この権利により、万が一、住宅ローンを借りている人が借入金を返済できなくなった場合に、
金融機関は対象不動産を差し押さえることができ、食いっぱぐれることはなくなる。

一般に物件を売却する際には、
売主さん側は抵当権を抹消=住宅ローンを完済して、次の人に引き継ぐことになる。
今回僕が購入しようとしている築1年という稀に見る築浅物件のケースでは、
売りに出す時点で住宅ローンが完済していることはまずない。
だから、売主さん側は手持ちの資金と物件の売却で得た資金で
残っているローンを返済する必要があったのだ。
しかし、サノさんからいろいろと丁寧に事の顛末を説明してもらったところ、
たとえカナモトに物件を売却しても抵当権を抹消できないらしいという…。

そうか、そういうことか。買えないのか…。

もともとこの物件は、結婚を控える売主さんとパートナーが
建設・購入したものであったが、突然お別れしてしまったために、売却に至った経緯がある。
さらに一度、設定した販売価格が800万も値下げされていた(※第4話参照)。
購入時にいろいろと出費が重なった売主さん側に自己資金はほぼ残っていなく、
販売価格も当初設定より下げてしまったために売却資金を得たとしても、
ローンを完済できないというのだ。

要は適当な価格設定を行い、売ることのできない商品を市場に出していたということだ。
サノさん曰く、「普通はこんなことはあり得ない。経験則から現状、かなり雲行きが怪しく、
無事に売買契約まで進める可能性は20~30%。ほぼ難しいだろう」ということだった。

「それは、ないだろう〜。今まで費やしてきた時間は何だったのか。
 全て無駄になってしまった。嘘だと言ってほしい。」と僕は思った。

この話を書いている今になって振り返ってみれば、“築1年の物件が800万の値下げ”という
値段ありきで飛び付いたことにも原因があったのかも。
さらに、突如パートナーとお別れしてしまい、
「もうこんな家に住みたくない」と自暴自棄になってしまった売主さんの気持ちも想像でき、
「まぁ仕方ない。いい経験になった。」と振り返ることができる。

ただ、この時ばかりは、言葉にできない怒りで頭がいっぱいになっていた。
サノさんは全然悪くないのに、この日は「やってくれたな〜、サノ」と何度も叫びながら、
家の中でハイボールを浴びるように飲んだ。

年内に絶対に買わなきゃいけない理由が、そこにはある。

個人事業主・フリーランスが、住宅ローンを借りる際に、そしてローン金額の目安となるのは、
確定申告3年分の売上になるというのは、以前伝えた通りだ。
僕がローンの事前申告で提出した確定申告書類は、2017年度・2018年度・2019年度の3年分。

コロナ前で仕事量も売り上げも右肩上がりだった頃だ。
ただ、もし購入が年を跨ぐとなれば、
銀行から2020年度の確定申告書類の提出を求められる場合があるとサノさんから事前に聞いていた。

2020年度はコロナ禍真っ最中、僕の仕事も売り上げもそこそこな打撃を受けてしまっていた。
そうなれば、ローン審査が降りない、降りても借りられる金額が大幅に減ってしまうのではないか、
当初の想定価格より下げて物件を探さねばならず、築年数も間取りも住宅設備などのスペックも
今よりかなり落とさなければならないかも…とめちゃくちゃ懸念していたのだ。
(今思えば、そんなことないかもしれないが、当時は必死だった笑)

だから、どうしても年内に決着をつけたかった。絶対に買わなければならなかったのだ。

サノさんも僕の事情を重々理解しており、
「何とか良いご提案ができるよう、頑張ります」と
新たに新築3棟・中古1棟の物件を紹介してくれた。

ただ、新築は僕の希望価格よりもざっと2割、3割価格が上がってしまう、
また中古は価格的には良いものの、築15年超という点が気になり、内見してみようとも思えなかった。
どうしても“購入一歩手前まで進み、手中に収めつつあった物件”と比べてしまい、
スペック・価格的にも魅力を感じられなかったのだ。 まだまだ未練を捨てきれなかった。

もう僕はマイホームを手に入れられないかもしれない、
そんなことすら考えてしまった。